那須高原ロングライドの軌跡
*下野新聞「日曜論壇」執筆(令和6年5月12日掲載)より
「地域の魅力で新たな那須ファンの獲得」をビジョンに掲げたサイクリングイベント「那須高原ロングライド」が今年で12回目を迎える。
自転車を手段に、地域の特徴を最大限に活用し新たな観光資源を確立してきた民間主導の取り組みである。
始まりは2008年。那須の可能性を探ろうと、自ら「東京シティサイクリング」に参加した。都庁スタート、神宮外苑ゴールの40㌔の道程だったが、信号の多さに脚ではなくブレーキングで指が疲れた。その体験から「那須なら10㌔先まで信号は無く快適に走れる」と着想を得た。
そして、プロサイクルロードレースチーム「宇都宮ブリッツェン」の砂川幹男(すなかわみきお)社長(故人)を訪ねた。砂川社長の熱心なアドバイスに支えられ、11年7月の開催に向けた実行委員会を発足、筆者は代表となった。
ところが11年3月11日、東日本大震災に見舞われる。福島県と隣接する那須は大打撃を受けた。風評被害の大きな壁にも直面。それでも「七人の侍」と呼ばれた実行委員や関係者らとの緊密な協力体制でイベントを実現した。参加者は全国から約750人、未曽有の大震災のわずか4カ月後のことだった。
翌年、参加者は2倍に増えた。5年後には4倍の3千人を超え、100㌔コースは募集開始1時間足らずで定員に達した。「那須のサイクリングは日本一エントリーが難しい!」と交流サイト(SNS)でつぶやかれた。
しかし想定外の試練が続く。開催9年目のこと、今度は新型コロナウイルスの世界的なパンデミックによって、山積みされる課題への対応に追われた。「どうすればできるのか」の議論を重ね、募集を1500人に限定し、開催にこぎつけた。
21年には活動が評価され、国土交通省「自転車活用推進功績者表彰」を受賞する。
持続可能な活動として参加者・地域の共感を得るためには、今後何を加え、何を減らしていくのか。イベントを支えるインフラ(道路、宿泊施設、サービス)の整備と改善は必須になるだろう。子供たちにサイクリングの魅力や知識を伝える体験プログラムの開発もいい。
それには地元行政や観光事業者との積極的な対話と連携が不可欠だ。加減乗除を繰り返し「新たな価値曲線」を生み出すための探求は、これからも続く。
筆者には次の段階に進むためのアイデアがある。那須をサイクリングのメッカ・中心地と位置付け、ネットワーク構築や情報交換の場となる「第1回全国サイクリングサミットin那須」(仮称)を開催することである。
全国から人々が集まり、対話が生まれる仕掛けだ。成功要因の一つは、私たちがその「ダイナモ」(原動力)になること。那須でこの取り組みを推進することは大きな意義がある。
「那須高原ロングライド2024」は来る7月7日に開催される。「地域の魅力で新たな那須ファンの獲得」というビジョンは、今もこれからも、変わらない。
(那須高原ロングライド実行委員会 会長 高根沢武一)